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歌川広重のリアリティー

世界が注目した

歌川広重のリアリティー

中山道広重美術館 学芸係長

前田 詩織さん

神奈川県横浜市の出身。大学院では浮世絵を研究。

歌川広重の浮世絵に惹かれ、

卒業と同時に岐阜県恵那市の中山道広重美術館の学芸員になって3年目。


フォーカス

歌川広重は幕末に活躍し、風景画を得意とした浮世絵師です。

遠近法を取り入れた臨場感ある風景が広重の作品の大きな特徴です。

画面に奥行を持たせ、前景モチーフを大きくはっきり描くことで写実的な風景を描き出すのです。

―フォーカスしたい物や人をはっきり描き、背景にぼかしを入れる表現は、

まるで現代のカメラ撮影の技術の様ですね。

写真家の方々はその点に注目されるようです。

広重は三分割法(※絵画や写真で画面を縦横三分割する基本的な構図法)を使って、

絵に安定感と迫力をもたらしています。

これは西洋絵画の影響を受けたもので、

同時代に活躍した葛飾北斎の絵手本の中にも構図法を紹介したページがあります。

歌川広重「木曽海道六拾九次之内 中津川(雨)」 大判錦絵 天保7-8年(1836-37)頃 中山道広重美術館蔵

リアルとリアリティー

例えばこの「木曽海道六拾九次之内 中津川(雨)」という作品の中では、

降りしきる雨を白い線で表現しているのが印象的です。

私たちには違和感のないものですが、これは西洋の画家たちに衝撃を与える表現の一つでした。

― 浮世絵は、海外で印象派の画家たちにも影響を与えたと聞きます。

西洋絵画では、あまり雨を描いた作品はなく、

雨粒の軌跡を直線で描くことは彼らには大変新鮮に感じられました。

広重の浮世絵は、モネら印象派や、ゴッホやゴーギャンたちのポスト印象派など、

たくさんの芸術家に影響を与えました。

遠近法は西洋の人々にとってはおなじみのものであり、

描かれた場所や場面内容が理解できなくても、

風景のリアリティを感じることができたはずです。

その一方で、平面的な画面や、この雨のような描写表現は初めて目にする斬新なものでした。

西洋の画家たちは、なじみやすさと新鮮さが共存する浮世絵の世界に魅了されたのです。

今も残るのは、情緒。

広重は江戸時代後期に活躍し、既に没後150年以上が経過しています。

長い間には災害や戦争もあり、焼失してしまった作品や、

海外に流出していったものもかなり多くあります。

今回ご紹介した「中津川(雨)」の図は当初の制作数も少なく世界中でも現存数は二十枚に満たない程で

国内では三枚程度しか残っていません。

保存状態も良好な一枚が当館に所蔵されているということは、

沢山の人の思いや縁が繋がってきたことの証です。

私が恵那に越してきて感じたのは、広重が絵筆を執った当時の風情が今も町の中に残っているということでした。

時を経ても情緒豊かな広重の作品は、当時の姿を生き生きと伝えてくれます。


【取っけえべえ!41号】


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